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9/6(土)21:05頃
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バス担当者の伊藤(仮名)はモニターを見ていた。終演だ。アンコールが始まる。
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伊藤の声につられて、みんなが全警備員、係員、ボランティアへの無線連絡に入る。無線系統は全部で5つ。すべてが機能的に動いていた。まだこのときはその後の修羅場を予想するものは何もなかった。
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21:30
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JR担当者・石井(仮名)は頭を抱えた。利府駅最終22:50以降2本しかないから、全列車計画遅延措置しかないと、思った。列車の発車を意図的に遅らせる措置に踏み切った。この時刻には臨時電車の半分がほとんど空で出発した後だった。
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21:35
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石井に利府駅から連絡が入った。電車の運転士はお客さんを運ぶのが仕事だから1時間でも2時間でも待っている、と言っていると。石井の目に涙が浮かんだ。続いて多賀城、仙台駅からも情報が入る。仙台駅からはお客さんは疲れているから今日は朝までコンコースを開けておこうという。石井は一言、ありがとう、とだけ伝えた。
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伊藤は各シャトルバスが順調に運行を開始したことを確認した。
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この時点でJRだけが苦悩の中にいた。村松(本名)は一人ぽつんと離れて座っている石井に冷たいお茶の入った紙コップを黙って差し出した。
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21:35
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バス担当者の鈴木(仮名)がぽつりといった。オーラスだからトリプルアンコールがあるのではないか。今2つめだから、3つめまで。
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警備の小野(仮名)が答えた。大橋(仮名)は下(アリーナのこと)で頑張っている。大丈夫だろう。各ゲートの配置も確認済みだ。もう終わるだろう。
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村松(本名)は叫んだ。だが、21:30をあまりにも超えると輸送計画は破綻する。終電がなくなり、多くの人が宿を失う。何とかしないといけないかもしれない。
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石井が答えた。各方面の終電は若干遅らせた。大丈夫だ。だが、10分押しが限度かもしれない。
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21:40
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伊藤が叫んだ。また出てきた。タフだなあ。SMAPには良い曲が多いからファンも多いのだろうな。だが、もう止めてくれないと本当に困るな。
アリーナを見ていた、警備の酒井(仮名)は言った。結構お客さんがなだれこんでいる。これを止めるのはもはやできない。多勢に無勢なんだ。
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小野が答えた。警備は最善を尽くしていると思う。お客さんはアンコールで気持ちがたかぶって、やりたくてやっているから止めるのはもはや無理だ。
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一人離れて座った石井は無言で頭を振った。限界だった。
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21:45
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本部内は沈黙が支配した。花火があがったあと、コンサートは大団円を迎えていた。村松が外に出ると、グランディ・21の職員がそっとコンサートの進行状況を見守っていた。客席はカラフルなペンライトでしめられ、スタジアム全体が夜空の中で光のページェントを演出していた。空は晴れ、星が出ていた。
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21:50
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村松が部屋に戻る頃、コンサートは終了した。結局村松は最後の瞬間は見ていなかった。
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石井は頭を抱えたままだったが、伊藤の「さ、始まった」の一言で、顔を上げた。
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みんなもう疲れていたが、あと一がんばりだった。
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伊藤は多賀城駅、泉中央駅に確認の電話を入れた。
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石井は一人計算していた。お客さんの人数とバス台数、列車本数だ。村松は電話でサブトラック放送室と連絡をとりあっていた。サブトラックの放送室はシャトルバス発着所近くなのでお客さんに情報を出しやすいのだ。
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21:50終演。この時刻の深刻さに、みんな気づいていたが、だれも必要以上の口をきくこともなく、ただただ、黙々と作業を費やしていた。
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21:55
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スタンド席はあっという間に人がいなくなっていった。各シャトルバス発着所に人の列ができはじめたが、この時点ではすぐに吸収され、バスは円滑に運行していた。
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誰の目にもバスは大丈夫だと思った。いや、思いたかった。
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アリーナ席を見ていた酒井が小さく「あっ」と叫んだ。
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大橋を含む10名程度の警備員と係員で、規制退場を守らないお客さんを抑えていた。もろくも崩れ去った。警備員1人が下敷きとなった。お客さん1人が倒れたが、すぐに立ち上がって、小走りで出口に向かった。他の警備員と係員が体勢を立て直して抑えた。
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小野が憮然として言った。これはもうお客じゃない。暴徒だ。モラルやマナーなんて全くないのか。子供もいるじゃないか。
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みんなは沈黙していた。
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22:00
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雨が降り始めた、という一報が入った。
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みんなは緊張した。雨が降るとシャトルバス待機列は乱れ、収拾がつかなくなる。村松は思った。しまった。やっぱりさっき指摘しておけばよかった。いまさら後悔しても遅いのだ。公演中、シャトルバスの発着所では綿密な打ち合わせが行われた。バース数の確保や整列方法。駐車場側に入った時点で、シャトルバス運行会社の担当、道路を挟んでスタジアム側はボランティアと外周バイトの担当と分けられた。そのとき、多賀城と仙台は一緒というバス会社側の話を聞いて、それはまずいぞ、と思っていたが、雨さえ降らなければ、案内の声は通るし大丈夫だろうと、思っていた。
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失敗した、と村松は思った。
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雨など降るはずがないと思ったとき、足をすくわれた。
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22:20
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スタンド席が空になる。少なくとも33,000人の人が出たことになる。
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ボランティアから無線が入った。グッズ売り場に人が殺到している、と。外周担当、ボランティアともに、早めに待機列に並んで頂くようにアナウンスするが、本当に多勢に無勢状態だ。
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これがおーらすなんだ。ぽつりと伊藤がつぶやく。
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それまでほとんど無言だったバス運行責任者の川辺(仮名)が言った。泉中央シャトルバスがうまくまわってない。この後混乱する。
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この言葉を証明するように、その30分後、サブトラックでシャトルバス運行状況を見ていたボランティアから泉中央駅待機列のすすみが悪いと連絡が入った。
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〜電話の嵐〜
輸送警備本部は宮城スタジアム6階の特別室1に作られた。メンバーは、JR、バスなど輸送機関関係者(6名)、キョードー東北(1名)、警備担当者(スタジアム内、外、住宅地担当の3名)、それにボランティア代表の私だった。
私は13:30〜17:40、21:00〜1:00過ぎ、本部に居た。
公演中は電気をおとし、カーテンを閉め、真っ暗状態。電話も無線も入らなかった。
終演後は、電話は10秒おきくらいになりまくり、5系統の無線もあちこちでつながる。みんながそれぞれで指令を出し、情報を得ている。
本部には20数台のテレビモニターがある。
このモニターはグランディ・21内の重要部分を映し出している。シャトルバス発着所、泉口、沢乙口、中央ゲート、第一駐車場などを常に撮している。カメラの位置はリモート操作できる。
ただ、利府シャトルの待機列だけがうまく映らなかった。これが実は致命傷となる。
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22:30
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川辺は決断を迫られていた。多賀城駅シャトルバスは30分程度の所要時間で運行されていたが、雨が強くなるとともに運行時間はみるみる延びていっているのだ。40分かかるとなると、石巻行最終電車23:10発にぎりぎりの時間だった。
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無線でバス発着所と連絡を取る。お客さんはいっぱいいるのか。無線から怒号がとぶ。いっぱいいる。なんとかしろ。川辺は多賀城駅のシャトルバス係員に電話をいれる。お客さんの状況はどうか。電話からは問題ないという連絡が入る。
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伊藤が決断した。多賀城駅シャトルは多賀城駅到着後、石巻、松島海岸、仙台に行かせる。そう指令を出せ。
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川辺は言った。運転手に今伝えるのか。伊藤は言った。伝えないでどうする。お客さんが路頭に迷うことになる。運転手もプロだ。分かってくれるはずだ。
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石井が親指をたてて笑顔で言う。みんなプロじゃないか。
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川辺は即座に無線をとって指令を出した。
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あとは多賀城駅シャトルの係員がうまくやってくれればいいのだが、と鈴木がぽつりと言った。
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22:45
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今度は石井が決断を迫られていた。利府駅シャトルバスは幸運にも20〜25分の運行時間で運行していた。だが、あと列車は4本程度しか出せそうもない。利府駅シャトルの最終を決定しないといけなかった。
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村松は言った。ボランティアの話ではまだ1000人いる。今最終便の話はとてもできない。酒井が言った。警備員の情報だと300名程度だ。だが、こっちからモニターできないのか。村松は必死でモニターをあやつった。どこかに映ってくれ、と。暗闇の中に群衆がいることがわかったのはそれからすぐだった。
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石井が叫んだ。あんなにいるじゃないか。とても間に合わない。
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伊藤が叫んだ。仙台駅に行かせろ。
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鈴木は言った。泉中央も間に合わない。仙台駅に行かせる。
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石井が言った。全部仙台駅か。そんなことしたら仙台駅がパニックになる。
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村松が言った。仕方がない。でも仙台に行かせることが重要だ。仙台なら屋根もある。24時間営業の店もある。利府には何もない。とにかく仙台に行ってください。
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石井は言った。バス会社はいいのか? 負担は全部バス会社の負担になるだけだ。本当にいいのか。
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伊藤は答えた。石巻、松島海岸にもう行っているじゃないか。21:50になったのは誰のせいでもない。プロの心意気を見せようじゃないか。
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石井はまた親指をたてた。村松は安堵して、無線をとった。
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22:50
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石井が村松に言った。利府シャトルが仙台に行くことを伝えるのはまずい。ぎりぎりまで待ってくれ。
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村松はなぜだ、と聞いた。
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川辺が答えた。仙台駅シャトルバスの並びはたぶん4000人だろう。彼らにこの情報が行くと利府駅シャトルは破綻する。バスはもうないのだ。利府駅シャトルバスが仙台に行ったらもはや戻ることはないからだ。
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村松は無線にしゃべった。
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23:10が利府駅行き最終バスとなります。列車はこのバスの到着に合わせて運行します。
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即座に無線が入る。1000人もいるんだ。23:10最終でいいのか。今はそれしか言えない。何とかしろ。怒号が飛び交う。
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タクシーで利府駅に向かう人がいる、どうするんだ、と無線が入る。利府発最終は23:30頃だ。間に合わないかもしれないから、仙台に誘導しろ。
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23:02
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最後のお客さんがアリーナの席を離れていった。
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片づけも最高潮を迎える。
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23:05
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石井は利府駅と連絡をとっていた。川辺は多賀城駅のシャトルバス係員と連絡をとっていた。村松はモニターを操作していた。鈴木は泉中央駅シャトルバス係員と連絡をとっていた。外の警備を見てきた小野が戻ってきた。酒井は泉口の警備員と喧嘩していた。能なしよばわりをしていた。
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みんな殺気だっていた。
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石井が口を開いた。利府駅シャトルバスを仙台駅にきりかえることを乗客のみなさんに言ってください。そして現場で利府駅がいいか仙台駅がいいか選択させていただいてください。仙台駅へは利府街道を走りますから、渋滞のため時間がかかります。そのことを伝えてください。石井は利府駅シャトルバス係員に同じことを伝えた。
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村松は無線をとった。その瞬間、仙台駅シャトルバス整理にあたっているボランティアからかみつかれた。村松は返事をしなかった。引き続き仙台駅シャトルの整理に当たって下さい、とだけ伝えた。
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外周無線にも同じことを伝えると、村松は1時間半ぶりに椅子に座った。
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疲れた、と思った。
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23:10
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村松は部屋を出て、6F屋根の先に行った。そこから円形広場をのぞむことができる。利府駅シャトル待機列は確認できなかったが、雨で無線状態が悪いのをここまでくればカバーできる。
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無線をとる。今後のバスが最終だ。その後は利府駅と仙台駅に分かれる。お客さんに聞いて貰ってくれ。
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無線が続々と入る。仙台駅行きを希望したら断られたとお客さんが怒っている。どうするんだ。村松が答える。あくまでも利府駅行なんだ。仙台駅行きではない。仙台駅行きのシャトルバスでは数千人の人が並んでいるんだ。今利府駅行きに並んでいる人だけを対象にしないとバスのやりくりができない。だから、利府駅シャトルバスは電車がないために、利府駅行きバス+電車の役割をして、利府街道で運行する。そのことを説明した上で、利府駅行きチケットを買って貰ってくれ。
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へりくつだ。まさに。
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だが、無線は仙台駅、泉中央、多賀城のシャトルバス待機列を整理しているボランティアにも聞こえている。数千人のうちの千人でも今利府駅シャトル待機列に並ばれたら、バスのやりくりがつかないから、また仙台駅シャトルバスに並んでもらうしかなくなるのだ。
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村松はこのへりくつを押し通した。
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ふと後ろを振り返ると、伊藤が心配そうに立っていた。伊藤は言った。ありがとう。
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23:20
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仙台駅シャトルの待機列は3000名以上!と外周バイト無線から情報が飛び込んできた。川辺はすぐにシャトルバス発着所係員に無線連絡する。どうして列が減らないんだ、と。向こうがどなる。バスに乗車できても発車できる間隔がどんどん長くなっているんだ。沢乙口が渋滞しているんだ。
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何だと!と伊藤が叫ぶ。
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モニターで沢乙口が映し出される。確かにバスは右折を待っているようだが。
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酒井が無線で叫ぶ。バスを優先させろ。何でバスを出さない。
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警備員が答える。勝手なことを言うな、一般車で渋滞するぞ。
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酒井はそれでも怒鳴る。バスが出ないと人はさばけない。そんなことがわからんのか。
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雨と渋滞で明らかにさばくペースが落ちてきていた。
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本部全体が沈痛な状態となった。
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川辺が叫んだ。多賀城からの石巻、松島海岸、仙台駅行き臨時運行が開始した。
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各1台だが、松島が足らない。1台を充当する。
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村松はややほっとする。確か石巻に宿泊する人は多いはずだ。
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23:30
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石井が本来の落ち着いた声で言った。利府発最終電車は23:40に決めた。仙台駅到着は23:56頃。岩切で松島行き最終に接続でき、仙台駅でも全最終列車に接続できる。
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ほっとした雰囲気が流れた。
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仙台駅シャトルバスの待機列はサブトラックとメインアリーナの間に長く伸びていた。雨が容赦なく待機列の人々に降りかかる。
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ボラから無線が入る。バスの台数が少ないのではないか。
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村松が答える。そんなことはない。仙台駅からはどんどん帰ってきているんだ。乗車が雨で遅くなっていて、またグランディ・21から出るところで渋滞になっている。
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こっちで沢乙口をコントロールするからちょっと待っててくれ。
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酒井に声をかける。沢乙口はもうちょっと何とかならないか。
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警備に初めて口を出した。伊藤が続けていう。シャトルバスの円滑運行こそが第一条件だ。乱暴に言えば一般車はそれから後でよい。
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酒井が答える。十分に分かっている。
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部屋の中の雰囲気は最悪になっていった。
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23:40
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それまでほとんど黙って見ていたキョードー東北の松木(仮名)が無線連絡を終わると、憮然とした表情で叫んだ。駐車場Bはいったいぜんたい警備員はいるのか。
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酒井が怒鳴る。いるに決まっているではないか。
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松木が言う。では確認してくれ。
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酒井はただちに無線連絡する。絶対数が少ないのだ。無線の声が叫ぶ。余りにも暗すぎる。どうしてもっと明るくしてくれなかったのだ。
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村松が言う。シャトルバス待機列のボラからも同じ報告が来ている。乗降場が暗すぎる。
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松木が叫ぶ。今照明のことを言ってもしょうがないだろ。とにかくスムーズに出すことが先決だ。
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村松が沢乙口に通じるシャトルバス乗り場を移しだしパンする。
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あっ。伊藤が叫ぶ。上までバスが連なっているではないか。沢乙口の警備員は何やってんだ。
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酒井が無線に怒鳴る。おまえら何やってんだ。あれほどバスを出せ、と言っただろ。赤でも出せ。とにかく出せ。責任はオレがとる。
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さすがに無線の向こうから返答はなかった。
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沢乙口のモニターがうつる。
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警備員4名が一般車を止めて、5分以上もバスを出し続けた。
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ようやくバス乗り場のバスの滞留がなくなった。
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23:50
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村松は胸が痛んでいた。モニターで映し出される仙台駅シャトルバス待機列には子供の姿もある。何とか短くならないのか、と思った。
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往路ですでにこの予感はあったのだ。11,200人という数は、仙台駅シャトルバス最多であった。昨年はこの半分。ベガルタ戦ではさらにその半分程度しか利用しない路線だった。10バース1台50人5分で、2時間はかかる計算なのだ。
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定員利用をするな、と念を押した。
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が、現場対応はそうではなかった。
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10バース造れといった。つくっただけで機能しなかった。
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問題点が問題を呼んだ。
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往路では仙台駅東西自由通路を越えて、西口バスプールにまで及んだ。バース数確保と賢明な警備で往路は最終便(最後の乗客が来るまで待った)を除いて、全員開演に間に合った。
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復路は、暗さと雨に加えて、出口混雑が加わった。
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沢乙口警備員へのいらいらはピークを迎えた。
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あれほど言っているのに何やっているだ奴らは!ボケばかりか!
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怒号が飛び交う。酒井や小野は無線にかじりついて警備員一人一人に指示をだしていく。
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このままでは0時をまわってしまう。
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既に石井はなすすべなく、押し黙って他の者のやりとりを見ている。
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23:55
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無線が入った。利府側タクシー全員乗車完了と。タクシーの整列にあたったのはボランティアだけで警備員はしなかった。
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タクシーが来ないと文句を言われた。輸送本部から各タクシー会社に支援を要請したが、断られた。事前にはあれだけ協力すると言ったではないか。
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松木は怒っていた。あまりにも勝手ではないか。
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村松は松木に再度聞いた。9時半をまわらないと断言したじゃないか。
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伊藤が言った。キョードーさんでもわからんのがSMAPのコンサートらしい。
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額面通り9時に終わると受け取って、臨時電車のダイヤを組んだJRさんの苦労はどうなる。10時ちょい前終了なんて臨時電車に何の効果もないじゃないか。
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伊藤は怒っていた。
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石井は疲れた顔で微笑んだ。
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村松は思った。昨夜9/5は22時半まで議論したじゃないか、それが全て水の泡となったではないか。昨日ボランティアの一人が仙台駅シャトルバス利用者1万人を確実に出せばこの計画は成功する、と。だから、1台4分いや3分で乗車させないと苦しい、と。
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時計は0時をまわった。
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大橋が大股で入ってきた。
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0:10
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マナー違反の客の静止で疲れ切った大橋は言った。シャトルはどうなっている?
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小野が答える。沢乙口で渋滞気味だ。
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警察はどうした。
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警察は11時前に撤退したようだ。
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なあんだ肝心のときに役にたたないじゃないか。誰かが暴言を吐いた。
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0:20
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無線連絡。最後の仙台駅シャトルバス発車。
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酒井が叫ぶ。沢乙口の警備員。絶対にバス優先だ。わかったな、オレがいいというまでバスだけ誘導しろ。
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モニターには沢乙口が映し出される。最後のシャトルバスがようやく沢乙口を通過していく。その時刻は0:25
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コンサートが終了して実に2時間半がたっていた。当然終電は全て終了している。仙台駅に到着するのは恐らく1時頃だろう。
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お客さんの苦労を考えたのだろう、石井は目を閉じた。
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川辺が失敗だったか、とつぶやく。
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伊藤が言った。仙台駅にかためすぎた。
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小野が言った。いまさら何を言ってもダメだ。計画の問題だし、それ以前に終演時刻を見間違ったからいけない。
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村松が言った。グランディ・21連絡協議会では21:00終演と決まっている。多めにみて21:30が許容範囲だ。それ以上では住民を説得できない。
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これは問題になる。暗い顔で村松が付け加えた。
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大橋が言った。今度は一般車の速やかな退出だ。3時間、すなわち0:50を超えてはならない。
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0:40
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村松はボランティアセンターに向かうため、本部から出ようとした。
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誰かが叫んだ。お疲れさん!
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別の誰かが言った。疲れているのはお客さんの方だ、バカたれ!
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お疲れは今言う言葉じゃない。
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村松は言いようのない敗北感を味わっていた。
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